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旅の特集

#14

ちょっと底の異世界へ。佐多の海でヴァルドアインザームカイトした話

不意な出会いで価値観が変わったり、視野が広がる瞬間がある。僕にとっては南大隅町佐多でのダイビング体験がそれだった。

2025.7.1

ちょっと底の異世界へ。佐多の海でヴァルドアインザームカイトした話

南大隅町の海の魅力を探していたときに出会った瀬戸口さんは佐多の海を知り尽くしたパイオニア的ダイビングショップのオーナーだ。海上自衛隊のダイバー養成講習もされている経験豊富なインストラクターでもある。

「佐多の海は最高の遊び場だよ。釣りやカヌー、SUP、もちろんダイビングもね。天気のいい日に一緒に潜ってみない?」瀬戸口さんからの思いがけない誘いに心が動いた。ナディーン・ステアが教えてくれたように人生は一度きりだ。ちょっと自分には遠い世界かなと思っていたが、このお誘いに甘えてダイビング体験をさせていただくことにした。

この日の天候は快晴で水温20度、おだやかで波もないような絶好のダイビング日和だ。体験ダイビングと言えど水深8mまで潜るらしく、久しぶりに感じる緊張感と高揚感が混ざった感じがたまらない。

健康状態のチェックを受けて、申込書と同意書にサイン。その後セッティングされた機材の説明を受けながら装着していく。主な機材はダイビングスーツ、マスク、フィン、酸素ボンベ、そしてウェイト(体を沈めるための重り)などで総重量は20kgを超える。

準備が整うと浅瀬に移動して、基本的なダイビングスキルの講習を受ける。水中での呼吸法やマスクに水が入った時の対処法(マスククリア)、耳抜きのコツ、ハンドシグナルなどなど。苦手だった口呼吸もしっかり練習できたこともあり、講習が終わる頃には緊張もすっかり解けていた。

ボートダイビングする沖合のポイントまで講習を受けた浅瀬から船でダイレクトに移動できる。移動時間が少ないのも街と海が近い南大隅町ならではの魅力。デイトリップでも楽しめそうだ。

フィンを履いていよいよエントリー。背中からドボンっとバックロールでいきたいところだが、さずがに見るだけにしておいた。最初の潜降地点は水深4mほど。水面から覗くと青く巨大な水中世界が広がっている。透視度が高く「佐多ブルー」とも呼ばれるこの海の色は神秘的で青よりも碧が正しいかもしれない。

海底までアンカーロープを辿って海底に潜っていくのだが、初めて体感する海中の深さにおもわず尻込みしてしまった。後日調べたところ、この感覚は人間に本能として備わった正常な防衛反応だとか。

「大丈夫。ゆっくりでいいですよ。のんびり楽しむ気持ちでいきましょう!」瀬戸口さんの優しい声かけに背中を押してもらい、なけなしの気合いで再トライ。華麗な潜水は諦めて体を沈めていくことにした。目を閉じてゆっくり呼吸に集中しながら1メートル………、2メートル…………。脱力して静かに少しずつ沈む…。水底に着くと不思議と気持ちが落ち着き、呼吸も自然にできることに気づく。あぁよかった。瀬戸口さんも拍手のジェスチャーで自分ごとのように喜んでくれた。

重い機材を身につけているにもかかわらず、水中では無重力のように体が浮いてバランスを保つのがとにかく難しい。この浮遊感がダイビングの醍醐味でもあるのだが、自分の力ではなかなか前に進めずもどかしく感じる。見るに見かねてか、瀬戸口さんが手を引いて一つ目のスポットへ誘導してくれた。

砂地を見ると海水がゆらゆらと揺らめいている。海底から温泉がポコポコと湧き上がっているのだ。手で触れるとグローブ越しでも温かさが伝わってきて、周辺の海水も生温かく感じられる。天然砂蒸し温泉で知られる対岸の指宿市を含むこの地域は、巨大な阿多南部カルデラ内部と推定され、温泉が湧水しているのだとか。火山が多く全国屈指の温泉地でもある鹿児島ならではの光景だ。

次のポイントまで体感で1分程度泳いだだろうか。瀬戸口さんが指差す方向を見ると、いつだったかスマホで見せてもらった景色が目の前に次々と現れる。差し込む光を反射しながらきらきらと輝くキビナゴやイワシの大きな群れ。空を飛んでいるかのように優雅に胸びれを羽ばたかせて泳ぐエイの姿。南の島さながらの色鮮やかな熱帯魚たち…。まるで野生の水中ショーだ。この日は残念ながら遭遇できなかったがウミガメと一緒に泳ぐこともできるのだとか。

佐多周辺でも見られる入り組んだ海岸線と穏やかな湾内はダイビングには理想的な環境らしい。魚影が濃く地形も面白いことに加え、「イサキが壁のように群れるイサキウォール」「ネコザメの繁殖行動」「エイの乱舞する姿」など珍しい景色も観察できるらしく、全国からダイバーが足繁く訪れるのだとか。

興奮を沈めるように目を閉じて海の流れに身を任せると、不思議と気持ちが満たされる感覚を覚える。ふと「Waldeinsamkeit(ヴァルドアインザームカイト)」というドイツの言葉を思い出した。生活文化が異なるため翻訳が難しいのだが「森の中で一人、自然と交流するときのゆったりした気分」という意味らしい。それがどう言うことなのかずっとイメージできなかったが、少し分かった気がした。街の生活では感じることのない、自然との見えない繋がりを感じる今のこの感覚のことをきっと言うのだろう。新しい価値観との出会いは凝り固まった思考や価値観から解放し、人生に彩りを与えてくれる。だから旅はやめられない。

ダイビングリバティ

住所:南大隅町佐多伊座敷4047
電話:0994-26-1345
駐車場:あり
営業時間:09:00〜17:00
定休日:年中無休
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PROFILE

サザン・オウプナーズ取材班

サザン・オウプナーズ取材班

南大隅町の隅々にまで足を運び、実体験から生まれた言葉を通してまちの魅力をまちの皆さんと一緒になって発信していきます。「アフターダイブは伊座敷港の食堂でお腹も満腹にしよう!」

<次回予告>

次回は8月4日(月)に「最果て愛されグルメガイド Vol.1」をお届けします。

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